レーシングマシンといえば、重量物のエンジンをドライバーの後ろに配置したリヤミッドシップレイアウトが基本。
F1はもちろんのこと、スーパーGTのGT300クラスでも、スーパーかーと言われるフェラーリ488 GT3エボやランボルギーニウラカンGT3、アウディR8、国産ではホンダNSX GT3など、リヤミッドシップのマシンが多く参戦している。
しかし、かつてのスーパーカーは、フロントのホイールベース内にエンジンを搭載した、いわゆるフロントミッドシップのレイアウトが基本だった。
前後のオーバーハングは短く、極端に長いボンネット内に大排気量のバカでかいエンジンが搭載され、キャビンは後方に追いやられ、さらに追いやれれたトランクは極端に小さい・・・。
エンジンが主役のこのマシンレイアウトを、『ロングノーズショートデッキスタイル』と呼んだ。
そんな、いにしえのクラシックスタイルのマシンが、スーパーGTではリヤミッドシップのマシンと激闘を繰り広げている。
そこで今回は、スーパーGTに参戦したロングノーズショートデッキスタイルのマシンを紹介してみようと思う。
ザックリ見出し
メルセデス・AMG GT3(2016-)※2020年からはAMG GT3 EVOに変更
まずは現役のマシンから。
2022年のスーパーGT参戦車両の中で、クラシックなロングノーズショートデッキスタイルのマシンといえば、メルセデスのAMG GT3だ。
6.2Lのでかいエンジンを収めた長いノーズと小さなキャビン、そして短いリヤトランクは、近年のレーシングマシンとは一線を画している。
F1マシンを見れば分かるとおり、本来レーシングマシン最大の重量物であるエンジンはドライバーの後ろに搭載するのが基本だが、メルセデスAMG GT3はデカいエンジンをフロントに搭載している。
これじゃあフロントが重すぎて旋回性能が悪くなるだろ!
だがこのマシンをよく見ると、フロントタイヤがかなり前にあり、キャビンが極端に後ろにあるフロントミッドシップ。
要するに重量物のエンジンと同じく重いドライバーがひっくり返っただけで、しかもマシンセンターから遠い前後オーバーハングはかなり短いので、重量配分も悪くないのだろう。
そんなメルセデスAMG GT3は2021年シーズンも、グッドスマイルレーシング・R’Qsモータースポーツ・アルナージュレーシング・レオンレーシングの4台が参戦する有力マシンなのだ。
メルセデスベンツ・SLS AMG GT3(2012-2017)
参戦期間
- 2012年から2017年
使用チーム
- レオンレーシング(2012-2015)
- ゲイナー(2013-2015)
- R’Qsモータースポーツ(2013-2017)
- グッドスマイルレーシング&チーム右京(2015)
- アルナージュレーシング(2015-2016)
- Rnスポーツ(2015)
マシンスペック(2017年)
- 車両型式・・・SLS AMG GT3 197
- 全長×全幅×全高・・・4710×1990×1195mm
- ホイールベース・・・2680mm
エンジンスペック(2017年)
- エンジン形式・・・M159
- エンジン仕様・・・V型8気筒 NA
- 排気量・・・6208cc
メルセデスAMG GT3よりもさらにロングノーズショートデッキスタイルを具現化しているのが、先代のメルセデスベンツSLS AMG GT3だ。
極端に低くて長いそのプロポーションは、まさにクラシックスタイルの王道で、個人的にはフロントタイヤハウス後端からドアの前端までのこの長さがたまらなくエロく見える。
それもそのはず、このマシンのベースである市販のメルセデスベンツSLS AMGは、いにしえの名車、1954年発売のメルセデスベンツ300SLをモチーフにしているため、このようなクラシックなデザインなのだ。
そして、メルセデスベンツ300SLの特徴である、跳ね上げ式のガルウイングドアを市販車のメルセデスベンツSLS AMGでも踏襲しており、同じくこのFIA-GT3マシンでも採用している。
本来レーシングマシンは重量物をなるべく低く配置したいのだが、ドアの蝶番がルーフにあるガルウイングドアまで採用するこだわりはすごい。
そんな現代に蘇ったクラシックスタイルの王道を行くメルセデスベンツSLS AMG GT3だが、そこは王者メルセデスが製造したマシンだけあり、走りは現代のFIA-GT3車両の中でもかなりの戦闘力があった。
BMW・Z4 GT3(2011-2015)
参戦期間
- 2011年から2015年
使用チーム
- グッドスマイルレーシング&チーム右京(2011-2014)
- チームスタディ(2014-2015)
- LMコルサ(2014-2015)
マシンスペック(2015年)
- 車両型式・・・E89 Z4
- 全長×全幅×全高・・・4387×2010×1210mm
- ホイールベース・・・2509mm
エンジンスペック(2015年)
- エンジン形式・・・P65B44
- エンジン仕様・・・V型8気筒 NA
- 排気量・・・4361cc
3台目に紹介するのは2011年から2015年まで参戦したBMWZ4 GT3。
BMW Z4 GT3もまたノーズが長くキャビンが後ろにあるロングノーズショートデッキスタイルだった。
ただ前述のメルセデスのAMG GT3やSLS AMG GT3と比べると、マシンの全長が300mm以上短く、ノーズもそれほどまでに長くなくややスタイルはおとなしい。
またルーフ中央部やリヤ周りを中心にフォルムとしては丸みを帯びており、クラシックスタイルというよりは旧来のロングノーズショートデッキ車両を現代のデザインにかなり寄せた感じだと思う者も多く、その外観は賛否が分かれる。
しかし戦闘力は高く、2011年にはドライバーとチームのダブルタイトルを、2014年はドライバーのタイトルを獲得している。
トヨタ・GRスープラGT300(2020-)
参戦期間
- 2020年から現在
使用チーム
- 埼玉トヨペットグリーンブレイヴ(2020-)
- LMコルサ(2021-)
- Maxレーシング(2021-)
マシンスペック(2021年)
- 車両型式・・・DB42
- 全長×全幅×全高・・・4490×1940×1106mm
- ホイールベース・・・2470mm
エンジンスペック(2021年)
- エンジン形式・・・2UR-G
- エンジン仕様・・・V型8気筒 NA
- 排気量・・・5400cc
ここまで海外のロングノーズショートデッキのスーパーGTマシンを紹介したが、国産GTマシンでも存在する。
それが2020年からデビューしたGT300クラスのGRスープラである。
長いノーズに後方に配置されたキャビンは、いにしえのトヨタ2000GTのような、まさにクラシックスタイルだ。
前に紹介したマシンはFIA-GT3規定で製造されたが、GRスープラはJAF-GT車両のため設計の自由度が高いが、埼玉トヨペットが製造したこの車両は、市販車のプロポーションを忠実に再現している。
ただ、なんとなく前出のBMW Z4 GT3に似ているような・・・。
そう、GRスープラの市販車は先ほどのE89型Z4の後継機種であるG29型Z4とプラットフォームを共用しているため、雰囲気が似ているのであろう。
ちなみにGT500クラスのGRスープラは、
ノーズは短いし、キャビンも前にあるような・・・。
そう、GT500マシンはクラス1規定により厳格にキャビンの配置や寸法が決められているため、GRスープラのようなカタチをした別のマシンで、ロングノーズショートデッキスタイルとは呼べない。
最後に
今回は、スーパーGTに参戦したロングノーズショートデッキスタイルのマシンを紹介してみた。
リヤミッドシップマシンが主役のスーパーGT GT300クラスの中で、フロントのミッドに大排気量のデカいエンジンを搭載したこれらのマシンは一種独特で、これまた独特の重低音を轟かせながら走り去る。
もちろんBoPによる性能調整のおかげだが、そんなクラシックスタイルのマシンが運動性能で勝るであろうリヤミッドシップのマシンたちと、ガチンコでレースを繰り広げるスーパーGTを応援していきたい。
以上、最後までご覧いただきありがとうございました。
参戦期間
使用チーム
マシンスペック(2021年)
エンジンスペック(2021年)