スクーデリアフェラーリといえば、現在のF1チームで唯一F1初年度から参戦する名門だ。
古くから多くのシーズンでチャンピオンシップ争いを繰り広げており、ドライバーズタイトル15回コンストラクターズタイトル16回を獲得する強豪チームでもある。
そんなフェラーリだが、50台を超えるマシンの中には、『やらかした〜』と思えるような失敗作もある。
そこで今回は、そんなフェラーリ史に残るほどのダメマシンを5台選んでみた。
ザックリ見出し
フェラーリ・F92A(1992)
参戦年 | 1992年 |
決勝最高位 | 3位 |
コンストラクターズ順位 | 4位 |
デザイナー | スティーブ・ニコルズ ジャン=クロード・ミジョー |
ドライバー | ジャン・アレジ イヴァン・カペリ |
まず一発目はフェラーリF92A。
日本のF1ファンにとって、フェラーリダメマシンといえばF92Aを思い浮かべる方も多くいるだろう。
1989年から長く使用されてきたジョン・バーナード設計の639/640系から大きくコンセプトを変更したこのマシンの特徴はダブルデッキと呼ばれる二重底構造。
サイドポッドとアンダーパネルの間に隙間を作り、隙間から多くの空気を後方に流し、リヤディフューザーの効率を高める狙いだった。
これは近年のマシンでも見られる手法だったが、少し時代が早すぎたのか、
「マシンの剛性が足りずたわんでしまい風洞での計測値とズレが生じだ」
とドライバーのジャン・アレジは語っている。
またフェラーリ伝統のV型12気筒エンジンもライバルに劣っていたらしく、
「コスワースエンジンを搭載していたら何勝かできていた」
とアレジは話し、実際メキシコグランプリの舞台であるエルマノスロドリゲスサーキットなど、エンジン性能が試されるサーキットでは周回遅れになるケースが何度もあった。
結局、F92Aはシーズンを通して苦戦を強いられ、最高位は第4戦スペイングランプリと第7戦カナダグランプリのジャン・アレジによる3位で、名門は1度の勝利も記録することができなかった。
そんなフェラーリ史上稀に見る酷い成績だったF92Aだが、今でもこのマシンのファンは多い。
それはこのマシンのデザインに尽きると思う。
尖ったノーズ。そしてフロアから独立した独特の形状をしたサイドポッドのインテークから、その後方にかけてのデザインはジェット戦闘機を連想させ、デザインセンスは超一級品だった。
そんなF92Aは、成績とは裏腹に多くのファンに愛されたマシンだった。
フェラーリ・F93A(1993)
参戦年 | 1993年 |
決勝最高位 | 2位 |
コンストラクターズ順位 | 4位 |
デザイナー | ハーベイ・ポスルスウェイト ジョージ・ライトン |
ドライバー | ジャン・アレジ ゲルハルト・ベルガー |
お次はフェラーリF93A。
前で紹介したF92Aに続き2年連続の選出だ。
この頃のフェラーリの低迷ぶりは凄まじく、シリーズを通して表彰台に上がったのが、モナコグランプリ、ハンガリーグランプリ、イタリアグランプリの3度だけで、積み上げたポイントはたったの28ポイントだった。
あまりの低迷ぶりに、前年を最後に第2期F1活動を終了したホンダに技術供与を依頼して新エンジンを製作したが、成績は向上しなかった。
まあ、このF93Aはチームに復帰したジョン・バーナードが設計する翌年のマシン(412T1)までのつなぎ的なマシンで、超駄作の前年型マシンF92Aからモノコックの基本設計を流用しているから、この成績も致し方ない。
そんな2年連続で不甲斐ない成績だったフェラーリだが、カラーリングだけは良かった。
深紅のボディにホワイトのストライプ。
コクピット前方からリヤカウルにかけて大きく描かれたホワイトのラインは、フェラーリ黄金期の1970年代を再現するようなフェラーリファン胸熱の演出だった。
フェラーリ・SF1000(2020)
参戦年 | 2020年 |
決勝最高位 | 2位 |
コンストラクターズ順位 | 6位 |
デザイナー | マッティア・ビノット シモーネ・レスタ |
ドライバー | セバスチャン・ベッテル シャルル・ルクレール |
次のマシンはずっと時代が新しくなり2020年のフェラーリSF1000。
フェラーリは前年まで王者メルセデスに迫る強さを見せており、特にシーズン後半から突如としてスピードを増したフェラーリは後半戦開幕のベルギーグランプリからメキシコグランプリまで予選で6戦連続のポールポジションを獲得し、古豪復活と騒がれた。
そして迎えた2020年シーズンだったが、前年好調だった予選成績は大きく後退し、決勝でも表彰台どころか入賞するのがやっとという状況に陥ってしまった。
結局表彰台は開幕オーストリアグランプリの2位と、第4戦イギリスグランプリ、第14戦トルコグランプリの3位の3度にとどまり、コンストラクターズランキングでは39年ぶりにトップ4から脱落し6位に終わった。
この低迷の最大の原因はエンジンにあることは明確で、事実多くのレースでストレート走行中に大きく失速し、簡単にオーバーテイクされてしまうことが見られた。
このエンジンの不調は、前述した2019年シーズン後半の爆発的な速さと関係がある。
前年の2019年の後半に突如不可解なパフォーマンスアップをしたことに対し、FIAが燃料流量やオイル燃焼に関する取り締まりをするべく、終盤の3戦を前にその一連の技術指令を発効する。
すると、終盤3戦でパフォーマンスは一気に低下し、翌年のSF1000でもスピードは戻らず、前述のとおり極度の低迷に陥ったのだ。
記念すべきフェラーリF1参戦1000レースを祝う名前を冠したマシンだったが、近年でも稀に見るほどの駄作エンジンが、その歴史に泥を塗ったカタチとなってしまった。
フェラーリ・F186(1986)
参戦年 | 1986年 |
決勝最高位 | 2位 |
コンストラクターズ順位 | 4位 |
デザイナー | ハーベイ・ポスルスウェイト ジャン=ジャック・イス |
ドライバー | ミケーレ・アルボレート ステファン・ヨハンソン |
続いては1986年のマシン、フェラーリF186。
フェラーリが不調に喘いだ1980年代だったが、その中でも1986年は厳しいシーズンとなり、ステファン・ヨハンソンの最高位が3位(4回)、エースのミケーレ・アルボレートに至っては表彰台がわずか1回(2位)という燦々たる結果だった。
この年はターボ全盛時代だったが、その出力でライバルに遅れを取っており、結局コンストラクターズ選手権ではこの年躍進したホンダエンジンを搭載するウィリアムズやポルシェ(TAG)エンジンのマクラーレンだけでなく、ルノーエンジンを搭載するロータスにも敗れ、選手権4位でシーズンを終えている。
当時はターボエンジンの性能とともにドライバーの能力も現代に比べると成績に差が出たが、個人的にはフェラーリのドライバーラインナップもライバルに対して劣っていたのではないかと考える。
もちろんミケーレ・アルボレートやステファン・ヨハンソンも実力的に高いレベルであったが、ライバルのネルソン・ピケやナイジェル・マンセル、アラン・プロストや若きアイルトン・セナなど、当時の一線級のドライバーと比べるとやはり見劣りする。
またF186はフェラーリではじめて本格的にCAD/CAMにより設計されたマシンだったが、マシンの風貌もまだまだライバルのマシンと比べるとクラシカルな印象は否めない。
フェラーリ・312T5(1980)
参戦年 | 1980年 |
決勝最高位 | 5位 |
コンストラクターズ順位 | 10位 |
デザイナー | マウロ・フォルギエリ |
ドライバー | ジョディー・シェクター ジル・ヴィルヌーヴ |
フェラーリの長いF1史の中で、史上もっとも低迷したシーズンといえば1980年だろう。
その1980年のマシンがフェラーリ312T5だ。
フェラーリは前年の1979年にドライバーズとコンストラクターズのダブルタイトルを獲得した。
そして迎えたのが1980年。
当時はグランドエフェクトカーが全盛の時代で、フェラーリは前年のチャンピオンマシンである312T4に大きな変更を加えたマシン、312T5を投入した。
しかし、ライバル勢の多くが使用するコンパクトなコスワースDFVに対してフェラーリが使用する大きく平べったい水平対向12気筒エンジンは、グランドエフェクト効果を発生させるには明らかに不利だった。
その結果、チャンピオンナンバーを掲げた312T5は、表彰台はおろか入賞さえもままならない状態だった。
最高位はなんと5位で、2台のマシンは8ポイントしか獲得することができずに、シリーズ10位という名門フェラーリとしてはあり得ない成績でシーズンを終えた。
結局フェラーリは名車312Tシリーズを捨て、翌1981年より完全新設計の126CKを投入し、エンジンも伝統の12気筒を諦め、V型6気筒ターボを投入することとなった。
まとめ
今回はフェラーリの駄作F1マシンを5台選んでみた。
ドライバーズタイトル15回コンストラクターズタイトル16回を獲得するF1界No.1の名門チームであるフェラーリだが、長い歴史の中には失敗作もあったのだ。
しかし今回紹介した5台のマシンをあらためて見ていただきたい。
どのマシンも格好だけは超一流なのだ。
F1界では『速いマシンは格好いい』という名言があるが、それはフェラーリには当てはまらない。
フェラーリだけは『遅いマシンもまた格好いい』のだ。
むかし、自動車評論家の清水草一氏が言った。
『すべての自動車は2種類に分けられる・・・フェラーリとそれ以外のすべてのクルマだ』
『フェラーリは地上唯一の自動車芸術である』
すべてのフェラーリF1マシンも同様だ。
フェラーリは速い遅いなどどうでもよく、それを超越した存在なのだ。
すべてのフェラーリF1マシンはその存在だけが神なのだ!
以上、最後までご覧いただきありがとうございました。
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