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F1でファステストラップを記録した3人の日本人ドライバー

F1ドライバーを評価する上でもっとも重要な記録といえば、決勝での強さの証である優勝回数と、一発の速さの証であるポールポジション回数、そして決勝での速さの証であるファステストラップ回数の3つです。

日本人ドライバーで優勝やポールポジションを記録したドライバーはいませんが、過去にファステストラップを記録したドライバーは存在します。なんと3人も。

ということで今回はF1でファステストラップを記録した3人の日本人ドライバーを紹介し、そのレースを振り返ってみたいと思います。

敬称について

現役選手の敬称については〇〇選手と表記すれば失礼がないと思いますが、引退選手の敬称についてはどのように表記すればいいのか・・・いつも悩んでしまいます。

〇〇元選手?それとも〇〇氏?いやちょっと硬いですね。では〇〇さん?うーん、チカラが抜けてしまいます。

色々考えましたが、現役時代のことについて書くため引退選手に関しても〇〇選手と表記します。

ちょっと違和感があるかもしれませんがあしからず。

中嶋悟(1989年 オーストラリアGP)

中嶋悟さん
2023年F1日本GPにて
DATA
  • 日程:1989年シーズン第16戦
  • 開催日:1989年11月5日
  • グランプリ名:オーストリアグランプリ
  • 開催場所:アデレード市街地コース
  • タイム:1’38.480
  • 記録周回:64周目

日本人で初めてF1でファステストラップを記録したのは日本人F1ドライバーのパイオニアである中嶋悟選手です。

中嶋選手がファステストラップを記録したのは1989年の最終戦オーストラリアグランプリ。中嶋選手はF1参戦3シーズン目の年で、翌年からティレルに移籍することが決まっていたため名門ロータスでの最後のレースでした。

非力なジャッドV8エンジンを搭載していたロータスはシーズン当初から苦戦を強いられ、このレースの予選も中嶋選手は予選で23番手に甘んじました。

中嶋がFLを記録したロータス101(ドライバーはこのレースで優勝したブーツェン)
2019年鈴鹿サウンドオブエンジンにて

決勝は豪雨に見舞われ、30分遅れのスタートでしたが1周目に約1/3のマシンがスピン。中嶋選手も1周目に前マシンの接触事故を避けようとしてコースオフしマシンを止めます。

しかし赤旗スタートやり直しで復活。

再スタートで1周目に単独スピンを喫するも、そこから怒涛の追い上げを見せる中嶋選手。

17周目には当時の入賞圏内である6位まで上り、28周目にはなんと4位までポジションアップします。

この時点で3位のリカルド・パトレーゼ選手(当時トップチームのウィリアムズ)との差は50秒以上ありましたが、そこからファステストラップを連発し1周あたり3秒も詰めるハイペースで追い上げていきます。

やがてパトレーゼ選手の背後に近づくのですが、ウィリアムズのマシンの水煙がエンジンに入り込みミスファイヤが発生。

結局ジャッドエンジンの不調により表彰台獲得には至りませんでしたが、自己最高タイの4位入賞を果たし、日本人としては初となるファステストラップを記録しました。

このレースでの中嶋選手の走りは衝撃的で、ジェームス・ハントなどF1で成功を収めたドライバーも彼の走りを絶賛。

中嶋選手は日本時代から特に雨のレースで定評がありましたが、これ以降『雨のナカジマ』と呼ばれることになりました。

またファステストラップを記録したのが64周目ということで、中嶋悟さんが監督を務めるナカジマレーシングのカーナンバーは64になったと言われています(諸説あり)。

小林可夢偉(2012年 中国GP)

小林可夢偉
2023年スーパーフォーミュラ第2戦にて
DATA
  • 日程:2012年シーズン第3戦
  • 開催日:2012年4月15日
  • グランプリ名:中国グランプリ
  • 開催場所:上海インターナショナルサーキット
  • タイム:1’39.960
  • 記録周回:40周目

日本人としてF1でファステストラップを記録した2人目のドライバーが小林可夢偉選手です。

2012年シーズンのザウバーのマシンC31は完成度が高く、ドライブする小林可夢偉選手はこの年快進撃を見せます。

第3戦の中国グランプリも好調で、メルセデスの2台に次ぐ3番グリッドを獲得します(予選は4位だが予選2位のハミルトン選手が5グリッド降格で繰り上げ)。

しかし可夢偉選手はスタートに失敗。理由はサポートレースで行われたポルシェカップのオイル漏れが可夢偉選手のグリッドに残されており、トラクションがかからなかったからでした。

結局可夢偉選手はオープニングラップで7位まで後退します。

さらに可夢偉選手は予選でフラットスポットを作ってしまい、レギュレーションによりそのタイヤでスタートしなければならず走行中振動が出てペースが上がりません。

そのため9周目という早い段階でピットストップするも、ピットアウトすると遅い後続勢の集団の中に入ってしまいます。

なんとかその集団をオーバーテイクするも、その後も作戦の違う遅いマシンに引っかかるばかり。予選で証明された通りこの日のザウバーと可夢偉選手は非常に速さがあったのにフラストレーションが溜まるレース展開でした。

作戦失敗。結局レースは10位に入るのがやっとでした。

3位スタートで上位フィニッシュの期待が高まっていただけに、この結果は相当にショックだったと可夢偉選手はレース後に語っています。

そんな中40周目に記録した1’39.960は全マシン中最速。可夢偉選手は日本人としては中嶋悟選手に次ぐ2人目のファステストラップ記録ドライバーとなりましたが、レース後に彼から喜びの声は聞かれませんでした。

角田裕毅(2023年 アメリカGP)

角田裕毅
2023年F1日本GPにて
DATA
  • 日程:2023年シーズン第19戦
  • 開催日:2023年10月22日
  • グランプリ名:アメリカグランプリ
  • 開催場所:サーキット オブ ジ アメリカズ
  • タイム:1’38.139
  • 記録周回:56周目

日本人でファステストラップを記録した3人目のドライバーが角田裕毅選手です。

記録したのは第19戦のアメリカグランプリでした。

角田裕毅選手が所属するアルファタウリAT04は完成度が低く、コンストラクターズ選手権を最下位でシーズンを折り返します。

しかし後半戦で多くのアップデートパーツを投入して徐々に戦闘力が向上します。

角田裕毅の2023年マシン
2023年F1日本GPにて

そして迎えた第19戦アメリカグランプリ。

11位からスタートした角田裕毅選手は直後に周冠宇選手に抜かれるもすぐに抜き返し、さらにエステバン・オコン選手とオスカー・ピアストリ選手がリタイヤしたため9位まで浮上。

その後2台のアストンマーティン勢に抜かれ11位に戻ってしまうも、フェルナンド・アロンソ選手がリタイヤし入賞圏内の10位に上がります。

そして角田選手とアルファタウリは残り2周となったところでピットインを決断。そう、いわゆる『プランF』です。
※フェラーリがファステストラップを記録するために無線で発した隠語

この年のレギュレーションではファステストラップを記録したドライバーが入賞圏内でフィニッシュした場合、1ポイントが与えられるため、それを狙ってのピットインでした。

ただ11位のアレックス・アルボン選手との差は21秒。ピットストップでのロスタイムは19秒と予想されるため、ギリギリの判断です。

ピットはミスなく作業してアルボン選手の前で送り出すと、角田選手は最終周で素晴らしい集中力でファステストラップを記録しました。

フィニッシュ後、角田選手の前でフィニッシュしたハミルトン選手とルクレール選手が失格になったため角田選手は8位になり、ファステストラップによるポイントと合わせて5ポイントを獲得しました。

最後に

ドライバー中嶋悟小林可夢偉角田裕毅
シーズン1989年2012年2023年
Rd.第16戦第3戦第19戦
GPオーストラリア中国アメリカ
サーキットアデレード上海COTA
タイム1’38.4801’39.9601’38.139
記録周回64周目40周目56周目

今回はF1でファステストラップを記録した日本人を紹介し、記録したレースを振り返ってみました。

ファステストラップは優勝やポールポジションに比べれば重要度は低く、年代により記録を取り巻く環境が変化しましたが、ドライバーのプロフィールにファステストラップが掲載されるように、ドライバーの大きな評価のひとつであることは間違いありません。

元F1王者のキミ・ライコネン選手(2024年1月現在FL記録数歴代3位)のようにファステストラップ獲得にこだわったドライバーもいましたね。

そんなファステストラップを記録した日本人ドライバーが3人もいることは誇らしい。現役の角田裕毅選手には更なる獲得を期待したいですね。

最後にファステストラップにまつわるエピソードをひとつ。

1976年F1インジャパン(日本GP)で長谷見昌弘選手が25周目に1’18.23というファステストラップを記録したと発表されました。他のドライバーを1秒以上引き離すダントツのラップタイムです。

しかしこの周回はタイヤ交換をしてピットアウトをしたいわゆるアウトラップ。明らかに計測ミスでした。

その後訂正リリースが配布されましたが、F1の公式サイトには長く長谷美選手がファステストラップとして掲載されていました。

ちなみに現在はジャック・ラフィット選手が70周目に記録した1’19.97に変更されています。

以上、最後までご覧いただきありがとうございました。

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大福
モータースポーツをこよなく愛す、セナプロ世代の四十代。 サーキット観戦デビューは、1996年フォーミュラニッポン第7戦の富士スピードウェイ。ど迫力のエキゾーストノートとタイヤの焼ける匂いを実感し、それまでテレビでしか観戦してこなかった事を悔やむ。以降、F1・WEC・スーパーGT・スーパーフォーミュラなどを富士スピードウェイ・鈴鹿サーキットを中心に多数観戦する。