2012年から新たにはじまったFIA世界耐久選手権(以下WEC)は、最上位クラスのLMP1-Hでは自動車メーカーの技術が注ぎ込まれたハイブリッドパワーユニットを搭載した洗練されたプロトタイプレーシングマシンでレースが行われた。
あのプロトタイプレーシングカーのフォーミュラカーともGTカーともつかない風貌が、多くのファンを魅了したのだが、2021年にWECの最上位クラスはル・マンハイパーカーに移行する。
そこであらためて、2012年から2020年までにWECに参戦したアウディ、トヨタ、ポルシェ、日産の4つの自動車メーカーのLMP1-Hのマシンとその活動について紹介してみようと思う。
第2回目はトヨタ編。
ザックリ見出し
トヨタTS030ハイブリッド 2012年モデル
マシン | エンジン | ドライバー |
---|---|---|
TS030ハイブリッド | 3.4L V8 | N.ラピエール A.ヴルツ 中嶋一貴 A.デビットソン S.ブエミ S.サラザン |
トヨタF1の母体であったドイツのTMGを拠点として開発されたTS030ハイブリッド。
名称のTSはTOYOTA Sportの頭文字で、030は1990年代にル・マンで活躍したTS010、TS020を継承している。
搭載するハイブリッドシステムは、富士スピードウェイにあるトヨタ東冨士研究所が開発したもので、後輪で回生と力行を行う形式を採用し、ライバルアウディの簡易型ハイブリッドとは異なり本格的なものとなっている。
エンジンは3.4L V8 NAで、こちらもアウディのディーゼルターボとはまったく異なる。
カラーリングは長年トヨタのイメージカラーであったレッドとホワイトではなく、ハイブリッドをイメージしたブルーとホワイトのカラーを採用している。
ドライバーズ ランキング | マニュファクチャラーズ ランキング | 参戦自動車メーカー |
---|---|---|
3位 | 2位 | アウディ トヨタ |
トヨタTS030ハイブリッド 2013年モデル
マシン | エンジン | ドライバー |
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TS030ハイブリッド | 3.4L V8 | A.ヴルツ N.ラピエール 中嶋一貴 A.デビットソン S.ブエミ S.サラザン |
2年目となるTS030ハイブリッドは、フロントのハイブリッド用スペースを廃し、モノコックを再設計した結果、フェンダーからノーズへの傾斜がなだらかになっている。
また改良されたモーターは300馬力を発生し、エンジンの530馬力と合わせると830馬力のトータルパワーになった。
ドライバーズ ランキング | マニュファクチャラーズ ランキング | 参戦自動車メーカー |
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3位 | 2位 | アウディ トヨタ |
トヨタTS040ハイブリッド 2014年モデル
マシン | エンジン | ドライバー |
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TS040ハイブリッド | 3.7L V8 | A.ヴルツ S.サラザン 中嶋一貴 M.コンウェイ A.デビットソン S.ブエミ N.ラピエール |
2014年はレギュレーション変更により新たにマシンを開発し、名称もTS040ハイブリッドになった。
外観上では、レギュレーションによりマシンの全幅が2000mmから1900mmに100mmも狭くなり、印象が大きく変化している。
ハイブリッドシステムは、レギュレーションで選択できる1周あたりの回生エネルギーを4段階(2MJ/4MJ/6MJ/8MJ)のうち、2番目に大きな6MJを選択し、TS030ハイブリッドの後輪を駆動する方式に加え、TS040では前輪も駆動し4WDになったことが大きな特徴となる。
またエンジン排気量は3.4Lから3.7Lにアップし、520馬力を発生するエンジンとモーターの480馬力で、システム馬力1000馬力のハイパワーマシンになった。
この意欲的なマシンで、2014年シーズンのWECはドライバーズとマニュファクチャラーズのWタイトルを獲得した。
ドライバーズ ランキング | マニュファクチャラーズ ランキング | 参戦自動車メーカー |
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1位 | 1位 | アウディ トヨタ ポルシェ |
トヨタTS040ハイブリッド 2015年モデル
マシン | エンジン | ドライバー |
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TS040ハイブリッド | 3.7L V8 | A.デビットソン S.ブエミ 中嶋一貴 A.ヴルツ S.サラザン M.コンウェイ |
2015年型TS040ハイブリッドは、ボディ前端の形状などの空力の改良やサスペンションの設計見直しなど、前年タイトルを獲得したマシンの進化モデルとなる。
エネルギー回生は前年と同様の6MJを採用したが、性能向上のためスーパーキャパシタの構造変更も行なっている。
しかしライバルのアウディやポルシェとの差は歴然で、厳しいシーズンだった。
ドライバーズ ランキング | マニュファクチャラーズ ランキング | 参戦自動車メーカー |
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5位 | 3位 | アウディ トヨタ ポルシェ 日産 |
トヨタTS050ハイブリッド 2016年モデル
マシン | エンジン | ドライバー |
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TS050ハイブリッド | 2.4L ターボV6 | S.ブエミ 中嶋一貴 A.デビットソン M.コンウェイ S.サラザン 小林可夢偉 |
前年の厳しい戦いから2016年シーズンに向けて新車開発を決断して、10ヶ月という短期間で誕生したのがTS050ハイブリッド。
ハイブリッドシステムの方式はTS040ハイブリッドから変わらないが、パワートレーン関連は一新された。
エンジンはTS040ハイブリッドの3.7L V8 NAから、2.4L V6直噴ターボに変更し、蓄電装置はスーパーキャパシタからリチウムイオンに、1周あたりのエネルギー放出量は最大の8MJを選択した。
またこの年からチーム名を『トヨタガズーレーシング』に変更し、マシンのカラーリングもそれまでのブルーとホワイトからガズーレーシングの統一カラーであるホワイト・レッド・ブラックに変更している。
この年のル・マン24時間では、最後の30分でポルシェ2号車がピットインしトヨタ5号車が1分半のリードを保ち優勝は間違えないと思われたが、残り6分のところでトヨタ5号車をドライブする中嶋一貴から、
「I have no power!」
と無線が入る。
そしてトヨタ5号車はピット前でマシンを停車し、数秒後にポルシェ2号車が通過。
トヨタはレースの大半をリードしたにも関わらず、初優勝の夢は叶わなかった。
ドライバーズ ランキング | マニュファクチャラーズ ランキング | 参戦自動車メーカー |
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3位 | 3位 | アウディ トヨタ ポルシェ |
トヨタTS050ハイブリッド 2017年モデル
マシン | エンジン | ドライバー |
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TS050ハイブリッド | 2.4L ターボV6 | M.コンウェイ 小林可夢偉 J.マリア・ロペス S.サラザン S.ブエミ 中嶋一貴 A.デビットソン N.ラピエール 国本雄資 |
2017年型TS050ハイブリッドは、前年からの発展型となり、もっとも目を引くのはフロントの大きなエアインテーク。
これはレギュレーション変更によるところで、フロントの空力部品の高さを15mmあげるとともにリヤディフューザーの幅が大幅に狭まっている。
この年はル・マン24時間とその前哨戦となる第2戦で、昨年の屈辱を晴らすため3台のマシンを投入したものの、この年もル・マン24時間での優勝はできなかった。
ドライバーズ ランキング | マニュファクチャラーズ ランキング | 参戦自動車メーカー |
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2位 | 2位 | トヨタ ポルシェ |
トヨタTS050ハイブリッド 2018-19年モデル
マシン | エンジン | ドライバー |
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TS050ハイブリッド | 2.4L ターボV6 | M.コンウェイ 小林可夢偉 J.マリア・ロペス S.ブエミ 中嶋一貴 F.アロンソ |
ライバルポルシェの撤退により2018-19年モデルのTS050は大きな仕様変更はなく、信頼性に重きを置いた小変更と冷却系を含む電池システムの軽量化にとどまった。
この年の最大の話題は、世界三大レース制覇を目論むフェルナンド・アロンソの加入。
アロンソは2018年シーズンもマクラーレンからF1に参戦していたのだが、F1と重複するレース以外全戦に参戦し、もちろんル・マン24時間にもトヨタ出場した。
2018年シーズンはライバルであるポルシェが撤退し、トヨタはル・マン24時間でもライバルよりラップあたり2秒以上速く走りレースを支配して、優勝争いはトヨタの7号車と8号車の争いになる。
結局、アロンソの鬼神のような走りとイエローフラッグのタイミングなどにより8号車がトップでチェッカーフラッグを受け、トヨタにとっては初、日本メーカーにとっては1991年のマツダ以来の優勝となった。
またこのシーズンは1年半に及ぶシリーズで、最終戦となった2019年のル・マン24時間でも8号車が優勝し、トヨタはル・マン2連覇を達成している。
ドライバーズ ランキング | LMP1選手権 ランキング | 参戦自動車メーカー |
---|---|---|
1位 | 1位 | トヨタ |
トヨタTS050ハイブリッド 2019-20年モデル
マシン | エンジン | ドライバー |
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TS050ハイブリッド | 2.4L ターボV6 | M.コンウェイ 小林可夢偉 J.マリア・ロペス S.ブエミ 中嶋一貴 B.ハートレー |
2019-20年シーズンも自動車メーカーのライバルが不在だったため、TS050の改良はハイブリッドシステムの信頼性向上と電池の劣化対策、空力に関してはフロント形状の見直しにとどまっている。
ドライバーはアロンソに変わり前年までF1のトロロッソに参戦し、ポルシェのLMP1チームにも所属していたブレンドン・ハートレイが加入している。
シリーズでは勝つほどに課せられるサクセスハンディキャップに苦しめられながらも8戦で6勝して、トヨタとしては2年連続、7号車と小林可夢偉にとっては初のシリーズチャンピオンを獲得。
新型コロナウイルスの影響で9月に順延されたル・マン24時間でも8号車が制し、トヨタと中嶋一貴は3連覇を達成した。
ドライバーズ ランキング | LMP1選手権 ランキング | 参戦自動車メーカー |
---|---|---|
1位 | 1位 | トヨタ |
最後に
年 | マシン | エンジン |
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2012 | TS030ハイブリッド | 3.4L V8 |
2013 | TS030ハイブリッド | 3.4L V8 |
2014 | TS040ハイブリッド | 3.7L V8 |
2015 | TS040ハイブリッド | 3.7L V8 |
2016 | TS050ハイブリッド | 2.4L V6ターボ |
2017 | TS050ハイブリッド | 2.4L V6ターボ |
2018-19 | TS050ハイブリッド | 2.4L V6ターボ |
2019-20 | TS050ハイブリッド | 2.4L V6ターボ |
トヨタのモータースポーツは幅広く、F1からラリーまでジャンルを問わなく関わってきたが、特に注力しているのがプロトタイプスポーツカーでの耐久レースだ。
その耐久レースの頂点であるル・マン24時間挑戦は1985年からで、途中F1参戦のため途絶えていたが、2012年にWECが復活するとその初年度から参戦し、シリーズの1戦であるル・マン24時間にも復活した。
ル・マン24時間では、残り6分を切るまでトップを走行するも目前でマシントラブルに泣いたこともあったが、2018年に悲願であったル・マンを制し、その後も2019年、2020年と3連覇を果たすのであった。
WECにはアウディやポルシェ、日産などが撤退する中、プロトタイプレーシングマシン最終年の2020年まで参戦を続け、2021年からハイパーカーに移行した最上位クラスにも継続参戦を続けている。
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